Soil Festivities

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土が美しいと感じます。

子供の頃から土の感触や匂いが何となく好きでしたが、「美しい」という言葉には結びついていませんでした。園芸を仕事にしはじめてからも配合培養土ばかりを扱っているので、鉢植え植物にとっていい土か悪い土かばかりで「美しい」土かどうかはあまり気に掛けてきませんでした。

自社の温室の周りに畑が広がっているのですが、キーンと冷えた空気の中、ごっそり掘り起こされた土の湿った色の何と美しいこと。深いところから出てきた土はプーンといい香りがしてきそうです。冬は乾燥してゆくスピードが遅いのでいつまでも美しくいてくれます。ずいぶん昔になりますが、Vangelis の音楽で Soil Festivities というアルバムがあって、タイトル通りに土と大自然のイメージが広がるのが面白くて頻繁に聴いていたのを思い出します。

私が子供の頃は、園芸店で売られる植物はほとんどが素焼きの鉢で売られていて、よく鉢の表面に苔が生えていました。冬の鉢花であるシクラメンやプリムラなどは家に持ち帰るとタワシで苔を落としてから部屋に置いたものです。確か、子供の頃に読んでいた園芸書には、根が呼吸をしやすいようにプラスティック製の鉢よりも素焼きの鉢で育てた方が良い、っと書いてあったはずです。今では生産性優先で、素焼き鉢で生産されているものはほとんどありませんが、消費者の清潔志向もあって、土までもが清潔な素材で配合されるようになっています。お客様に買っていただいた鉢花の土から虫が出てこようものなら大変です。「不潔な土を使っているのではないか?」とのおとがめとなります。土は沢山の微生物が居てくれるからこそ「いい土」だったはずなのですが、畑の土は理解できても、住環境に入り込む鉢花の土としては理解されない時代となってしまいました。

大都市では高層住宅がどんどん増えているので、土にふれる機会の少ない環境で育つ子供が増える一方です。花粉症や食べ物へのアレルギーが増えているのもそんな環境が原因しているのかもしれませんね。清潔な環境で育った子供ほど免疫力が低くて病気にかかりやすいのですから将来の社会保障負担はたいへんです。子供の健康を願うのであれば、せめてベランダ菜園くらいは作れる住環境を確保してあげたいものです。

いつしか Vangelis の Soil Festivities も、都会育ちの人にとってはイメージの膨らまない音楽になってしまうのかもしれません。土を全く使わない野菜工場なるものが稼働し始めていますし、普通の生活をしている場合は自分の手を全く汚すことなく肉や野菜を口にできますから、全てが人工環境でまかなえるような錯覚をおこしてしまいがちです。土を美しいと感じるかどうかはどうでもよいことにしても、土が無ければ生きてゆくことができないのだという意識は常に持っていたいものです。作物を作るための土が枯渇すればすぐに戦争が始まってしまいます。

2010.1.05  Hitoshi Shirata

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